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2017. 10. 02  
翻訳フォーラム・レッスンシリーズ第7弾、講師はT橋(さ)さんです。

この「述語から読む・訳す」については、「翻訳フォーラム・シンポジウム」の中でもお話がありました。
そのときの記事がコチラです。
(時間があれば、まずコチラから読んでいただけたらと)


お話をお聞きし、「衛星図(上の記事の中に例があります)」を作って考えるというやり方を示していただき、「翻訳事典2018年度版」や「翻訳のレッスン」を再読して、やっと考え方の全貌が掴めてきたという感じですが、それでも、きちんと把握できているのか、書籍や雑誌の中で示されたトレーニングができているのか、自分のやり方でいいのか等々、不安が多々ありました。

そうしたら、東京でワークショップがあるという。これはもう、行かねばなるまい。
決して、遊びに行ったわけじゃありませんよ、決して。
いちおー、「翻訳事典」の該当記事と「翻訳レッスン」のT橋さん担当部分を再読して参加しました。


てことで、以下、ワークショップのまとめです。長いので、お時間できましたときに。
(* 応用もきくかと思いますが、ワークショップの話は、英語原文→日本語訳文の方向です。)

前半は、「述語から読む・訳す」という考え方の概要の説明でした。
(この部分は、JTFジャーナルの次号に、復習的な形で、T橋さんが寄稿なさるそうです。)
(JTFジャーナルは、会員でなくても、登録すればPDF版を読むことができます。私もそのようにしています。)

以下、その概要のそのまた概要を、箇条書きでまとめてみました。
(あくまで、ワタクシが理解し得たかぎりですので、間違っている部分があるかもしれません)

・翻訳は、本来不自然な作業なので、日本語力を向上させる努力をしなければ、翻訳すればするほど日本語単体の文章力は低下する(ホラーやな<と前も言ったような気がする)。

・日本語を維持向上させるための方策として、日本語文法と英語文法の共通部分を体系的に身につけることをしておけば、原文が理解しやすく(最終的に)効率的でもある。

・その「日本語側と英語側を対応させる」方法として、述語に目をつけて文の構造を考える、というやり方がある。
 * ここで、衛星図について説明。
 ** 述語を中心に衛星図を描くことで、主-述のねじれ等を防ぐことができるということなのですが、実際にやってみると(ワタクシは和訳者なので、まず英語でこれをやるんですが)、確かに「主語が迷子にならない」感があります。

・文の構造を考えるときは、構文が、単文、二股合せ文(主語は1つで述語が複数ある場合)、重文(合せ文)、複文(入れ子文)のいずれであるかを意識する。

・また、意味的内容から、できごと文(なにがどうした=動詞述語文)としなさだめ文(なにがどんなだ=形容詞述語文、なにがなんだ=名詞述語文)に分類する。SV、SVO、SVOO、SVOC、SVCの5文型は、できごと文、しなさだめ文のいずれかに(概ね)分類することができる。
 * できごと文としなさだめ文については、「翻訳事典」の該当記事にもう少し詳しく書かれています。
 ** ここで、20例ほどの課題文を、できごと文、しなさだめ文に分類するという実習があり、前半終了です。


後半は、いよいよワークショップの時間です。
これをグループワークで行うため、予めシャッフルされた7班に分かれます(顔見知りの方がいてホッとするやら、まったく別の意味でキンチョーする方とご一緒するやら...)

50個弱のMostの訳例が記載されたカード(訳例は、新和英大辞典の逆引きで得られた例文から抽出されたもの...だったと思います<カード切離し作業をしながら聞いていたので間違っているかも)を使用し、これを、グループで相談しながら、日本語訳でmostにあたる部分が置かれている位置によって、6パターン(フレーム外=外出し、主語の前、主語の後ろ、述語の前、述語=文末、その他)に分類します。

訳例カードはこんな感じ。
訳例横








実際は、配布資料に各パターンの衛星図も用意されていて、迷ったときの助けになります。
分類の過程で、「おお、その訳は出てこない(新和英逆引き恐るべし)」という訳例に遭遇したり、グループ内で意見が割れたり、文脈がない中では分けにくいよね、という話になったり。「自分でやってみる」+「グループワーク」のよさですね。
 * 蛇足ですが、通常「語彙」と呼ばれるものは、各パターンの中での変化なので、パターン変化が自在にできるようになれば、表現の幅は格段に広がります(ハズです)。

「仕分け」が終わったら、次は自分たちで6パターンの訳語を考えます。時間の制約がある中では、どうしても無難な訳になりがちでしたが、それでも、自分では思いつかないようなアイディアも出てきたり。これもグループワークのよさですね。最後に各班の発表があり、そこでまた、自由度の枠が広がったような感じです。
今回は、参加者の中に十代の学習者の方が1人混じっておられて、若者向けの表現に場が湧くということもありました。若者向けの表現を取り入れるかどうかは、これはもうケースバイケースでしょうが、年代の異なる同業者や学習者の方と話をする機会は大事だなあと改めて思いました。

その後、駆け足でoftenの訳例に触れたあと、簡単なまとめがありました。またまた箇条書きで。

・英語文法と日本語文法の整理には時間が掛かり、一時的に翻訳スピードが下がる可能性もあるが、それは初期投資。長い目で見れば力がつく。「急がば回れ」。
・述語に目をつけられる(述語を中心に考えられる)ようになると、日本語も構文として考えられるようになる。
・最終的に翻訳作業の正確さと自由度が増すので、「文章を見たら課題だと思って頑張りましょう」。


「予習」をしていったので余計にそう思えたのかもしれませんが、特に「翻訳のレッスン」には、この日お聞きした内容がうまくまとめられていると思います。
未読で出席された方がおられましたら、今読んでみると、「砂に水が染み込むように」という感じで頭に入ってくるのではないかと思いました。
ワタクシ、決してフォーラムの回しものではありません、念のため。


もうすでにかなりの長さになっていて、本当に申し訳ないのですが、最後に若干の感想など。

三日坊主の多いワタクシですが、できごと文としなさだめ文の仕分けは、時々思い出したようにやっています(正しくは「思い出したときに三日坊主する」)。思い返してみれば、パターン変化も、それとは意識せずに、日々の仕事の中でやっていたりします。ワークショップに参加したことで、やり方や目的がもう少し明確になったような気がします。聴くばかりではなく、参加するセミナーも大事だなと再認識しました。

T橋さんは「考える」という言葉をよく使われたのですが、この言葉がとても「深い」言葉であるように思えました。
さまざまなことを考えていると、当然翻訳速度は落ちるわけで、ワークショップでは、それが、先に進むための「初期投資」と表現されていました。
「だから、つまり今は頑張りどきで、もう少しすべてを整理することができれば、もう少し楽に早く、日本語として齟齬のない(できれば「そこそこ読ませる」)訳文が書けるようになるのかなあ」といったことをとつおいつ考えていて、ふと、翻訳が「早い」には2種類の「早い」があるのではないか、ということに思い至りました。「考え」分類し多くの情報を整理して自分の中に蓄積できているがゆえに早い人と、外部の用語/例文集等にうまく頼って早い人の2種類です(この場合の「用語/例文集」とは、決していわゆるTMのみを指しているわけではなく、狭い分野に限定した用語や言回し、定型文などをまとめたものもこれに該当するかと思います)。基礎力のある方が、きちんとした信頼の置ける用語/例文集を使って仕事をしていく分には、分野限定の成果物という点ではまず問題はないのかもしれません。でも、わりと根本的なことから考え悩むことなく外部に頼る、ということは、「そこから隔絶されてしまうと自分の中に戦う武器がない」という危険性も孕んでいるのではないかと、そんな風に思ったのです。「考え、修正し、正しい(この場合はきちんとした翻訳ができるということですが)方向に進む」ことができるというそのことこそが、「戦う武器」なのかもしれません...自分の中でも、まだ言葉として上手くまとまっていない状態なのですが、まずはワークショップの報告を書いておきたく、分かりにくい感想も含めさせていただきました。ご容赦ください。


最後になりましたが、資料の準備も含め、実り多い勉強会を企画してくださった翻訳フォーラムの皆さま、それぞれお忙しい中、本当にありがとうございました。
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Comment
Re: タイトルなし
Nestさん、再コメントありがとうございます。

>ほんとはT橋さんに確認していただいたほうがいいかも
わわわ、では、暫くの間ダメ出しが来ないかどうかびびっておくことにします。

フォーラムの方は皆さんとても頭が切れる方でいらっしゃるのですが、(以下はあくまで私見ですけど)中でもI口さんとT橋(さ)さんは双璧で、I口さんは喋ったことがそのまま文字化できるくらい整理して喋られるので難しい内容も理解できてしまう希有な方で、T橋さんは、どちらかと言えば頭が良すぎて難しいことを難しく伝えてしまわれる方なのかなという気がします。F井さんとT橋(あ)さんは、その時々に応じて「こちら側」に立って話して下さる、初心者に教えるのが上手い方なのかなと(全体として、皆さんを褒めてます<上手く伝わらなかったらすいません)。
ですから、今回、F井さんが合いの手を入れて下さって、とても助かりました。

今、翻訳業界ははざかい期というか転換期というか、どういう方向に向かうのかはっきり分からない時期にあるような気がします(少なくとも私にとってはそんな感じです)。
そんな中で、どの方向に転んでも、あるいは翻訳業界からは出ることになっても、最終的に自分の力にできるのは、「英語を読んで正しく理解し、きちんとした日本語を書く」ことしかないのではないかと、この頃特に思うようになりました。自分なんかは「逃げ切り世代(うっしっしっ)」と思ってますけど、これからの方にもそうした基本的な力は大事にしてほしいなと思います。

私なんかはまだまだ学習者の立場ですが、これからも、何かを「こうだ」と言い切ることなく、「私が思うこと」という視点を忘れずに記事を書くことで、先輩方のお役に立てたらと思います。
ホント、私が出会ってきた方々もいい方ばかりで、惜しげもなく色々なことを(それも上から目線ではなく)教えて頂きました。だから、今度は、私も「Pay it Forward(恩送り)」と思ってます(あの映画ファンタジーっちゃファンタジーですけど、好きでした)。
「間違うことなく受け取ることができていた」については、ほんとはT橋さんに確認していただいたほうがいいかも…というのも、講義中にも言いましたが、この会についてはわたしも「教わる側代表」みたいな感じで参加していて、まだ完全に理解しているとは言い難いからです。(何度も聞いてるのに、また今回も発見あり)

でも「『基本が大事』『幹の太い翻訳者を育てたい』『本来力のある人には、きちんと考え翻訳できる翻訳者になってほしい』という皆さんの考え方」については、「その通りです!」と自信を持って言えます。

若い人、学習中の人によく言うんですが、この業界おもしろいもので、新しい人が育ってくることを脅威に感じたり、ライバルが増えちゃ困るから潰しちゃえと思ったりする人ってあんまりいない気がするのです。むしろ「よく来たね、まあまあそこにおかけ。一緒に学んで伸びましょう」という雰囲気がある気がしますし、自分もそうやって育ててもらったと思うので、今後もそういう場を作れたらなあと思います。
Re: タイトルなし
Nestさま、まいどです~。
ほめすぎ---

間違うことなく受け取ることができていたようで、とりあえずホッとしています。
フォーラムの方々とも、もっと深く話をすれば、もちろん、考えが違うところはいくつもあると思うのですが、「基本が大事」「幹の太い翻訳者を育てたい」「本来力のある人には、きちんと考え翻訳できる翻訳者になってほしい」という皆さんの考え方(ハズしていたらスイマセン...)にはとても共感します(私自身が、あまり考えない流されやすい翻訳者だったせいもあるかも)。

喋る言葉で伝えることはどちらかといえば苦手なので、よい勉強会やセミナーに出席したら、せめて、出席された方はもう一度内容を再確認することができ、出席できなかった方もそれなりに全体の流れが分かるようなブログ記事を書いて、読んで下さる方に伝えていければと思っています。お役に立てたら嬉しいです。

今回もゆっくりスケートの話ができなかったのだけが悔やまれます(<結局そこか<自分)。
時間と状況の許すかぎり、これからも「これは」と思う勉強会には出席させて頂きたいと思いますので、よろしくお願い致します。
またもや、すばらしいレポートをありがとうございました。伝えたかったことが伝わるって、ほんとに幸せです。イベントをやる甲斐があります。

今回はスライド資料をお渡ししたとはいえ、これだけの情報をよくぞここまで整理なさると、感服いたします。事前に予習してくださったからこそなんだと思います。心から感謝します。

今後もお楽しみいただける会ができるようがんばりますので、また来てくださいね^^。
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医学・医療機器和訳から
医療関連の書籍翻訳にシフト中
『患者の話は医師にどう聞こえるのか』共訳
『医療エラーはなぜ起きるのか』
現在3冊目と格闘中
還暦を過ぎて(やっと)
翻訳は楽しく苦しく難しいと実感
老体に鞭打って勉強に励む日々
翻訳関連の雑感・書籍紹介・セミナー感想など
(2023年5月現在)

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