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2021. 10. 14  

 先日、ほんとうに久しぶりに、翻訳者(と家人)以外の方々とお話する機会がありました。
 相手は総合内科のお医者さま。医師と患者という文脈を離れてお医者さまと話をするのは、(共訳の原井先生を除けば)これが始めてかもしれません。
 そのうちお二方が「医師の教養」というYouTubeをやっていらして、そこで『患者の話は医師にどう聞こえるのか』を熱く語ってくださり、たまたまそれを見つけたわたしがお礼のDMを送り、「一度訳書についてオフレコで語り合いませんか」という話になり。SNS、ありがとう(嬉泣)。わたしだけの書籍ではないので、担当編集者さまと原井先生には事前に「こんな話になっていますがよろしいですか」と伝え、いずれも快諾いただきました。
 あっという間の楽しい90分で、まさに命の洗濯をした感じです。


 訳書についてもいろいろ話しましたが、お互いの仕事についてや、仕事をする中で日々感じていることなどもアレコレと。わたしの方は、仕事の他にテレビドラマや小説などを通じて(誇張や脚色はあるにせよ)医師の仕事についてある程度知識がありますが、先生方は「翻訳者」という人種ははじめてだったようで、それもお声がけいただいた理由の一つかもしれません。
 最初に動画を視聴したとき、訳書をネタに(笑)日々の診療を振り返っておられるお二人に、「身体診察や患者とのコミュニケーションを大切にされている方」という印象を受けました。私が慕う老掛りつけ医先生とも通じるものを感じました。そういう先生方が、わたし自身好ましく感じたオーフリ先生の考え方に共感し、『患者の話は医師にどう聞こえるのか』を紹介してくださっていたことが、わたしはとても嬉しかったのです(だから、大胆な行動に出ちゃったんですね、たぶん)。この本に書かれていることは、二者間(特に二者間の力関係に多少差がある場合)のすべてのコミュニケーションに通じるものですが、メインターゲットはやはり医師の方々だと思っています。だから、お医者さまが「刺さる」と仰るのを聞いたときは、一番届いてほしいところにちゃんと届いていることが分かって、ほんとうに嬉しかったです。

 先生方は、この本は、医学生にも読ませたいけれど、医学部を卒業し、実際に日々の診療でさまざまな壁にぶつかるようになったころに読むのが一番得るものが大きいのではないかと仰いました。
 「読みどき」、ですね。わたしも、この頃そのことをよく考えます。翻訳の参考書籍を手にとるのにも、(その人に)一番「身につく」時期って確かにあると思うのです。たとえば、私はだいぶ前に『日本語の文法』(高橋太郎)や『翻訳とは何か』(柳父章)に挑戦しましたが、そのときは見事に討死しました。一方、『英文解体新書1』(北村一真)や『翻訳力錬成プロブック』(柴田耕太郎)などは、今「自分にとって読みどきだなあ」と思いながら読んでいます。
 とはいえ、『患者の話は医師にどう聞こえるのか』は、『医師の感情』(ダニエル・オーフリ、堀内志奈訳、医学書院)とともに、医学生の方にも手にとっていただけたら嬉しい一冊です。「コミュニケーションは大切だけど大変な『技術』だ」ということが、きっと知識として頭のどこかに残るでしょう。実際に診療に携わるようになってから、ふと思いだして手にとったら、もしかしたら初読時には気にも留めなかったフレーズが、なにがしかの助けになるかもしれません。


 とまあ、タイトルにはまったく関係のない記事内容になってしまいましたが、「医師の話」は同じ職業人として共感する部分もあり、まったく新鮮な話もあり。先生方からいただいた翻訳についての質問へのわたしの回答(訳者の話)は、あちらにはどう伝わったのでしょう。この本ではないけれど、他人とコミュニケーションをとるのは本当にむずかしい。思い返してみれば、話せることが嬉しくて、自分のことばかり喋っていたような気もします。「相手の話を聴こうとする姿勢」を忘れていたかも。次にだれかと話をするときは、相手の話をもっとよく聴こう。


医師はなぜ患者の話をすぐにさえぎってしまうのか?共感が崩れる瞬間~患者の話は医師にどう聞こえるのか(ダニエル・オーフリ著):医師の教養37(Part.1)

患者の希望と医師の推奨がすれ違うとき~患者の話は医師にどう聞こえるのか(ダニエル・オーフリ著):医師の教養37(Part.2)

愛想がいい医者は名医か?を科学的に検討する~患者の話は医師にどう聞こえるのか(ダニエル・オーフリ著):医師の教養37(Part.3)
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プロフィール

Sayo

Author:Sayo
医学・医療機器和訳から
医療関連の書籍翻訳にシフト中
『患者の話は医師にどう聞こえるのか』共訳
『医療エラーはなぜ起きるのか』
現在3冊目と格闘中
還暦を過ぎて(やっと)
翻訳は楽しく苦しく難しいと実感
老体に鞭打って勉強に励む日々
翻訳関連の雑感・書籍紹介・セミナー感想など
(2023年5月現在)

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